【おすすめ本】AI VS. 教科書が読めない子どもたち

「乱読の読書会」では、毎月参加者の方々に月間ベスト本を紹介していただいています。月に10冊以上の本を読む方々ということもあり、どれも読み応えのある本ばかりです!!せっかくなので、その中から一部をピックアップしてこのホームページで紹介していきたいと思います!

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AI VS. 教科書の読めない子どもたち

今回紹介するのは、2020年4月の会の参加者に紹介いただいた本「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」(東洋経済新報社)です。2019年のビジネス書大賞を受賞した著作であり、各所で話題になった本なので名前ぐらいは聞いたことのある方も多いかも知れません。

筆者はAIの専門家である新井紀子さんという方です。「AI」というとどうしてもバズワード的に煽るような論調で語られることが多いですが、そこはさすがのAI専門家。AIが得意なこと・苦手なことを実例を上げながら丁寧に説明しており、それを踏まえた上で筆者なりの提言をしています。

僕はこの本を読んでいて、冷静かつ中立に「AI」について語っているところに好感を持ち、これからのことを考えるうえで基本になる知識が得られたと思いました。紹介いただいた方も、どうしたらAIに負けないでいられるかについて、考えるきっかけになったとおっしゃっていました。

内容
大規模な調査の結果わかった驚愕の実態―日本の中高校生の多くは、中学校の教科書の文章を正確に理解できない。多くの仕事がAIに代替される将来、読解力のない人間は失業するしかない…。気鋭の数学者が導き出した最悪のシナリオと教育への提言。

「BOOK」データベースより

AIの得意なこと、苦手なこと

筆者は「AIを東大入試に受からせる」という「東ロボプロジェクト」に参加しており、AIの現場を見てきたという経験があるだけに、その特徴や得意・不得意に関しては深い知見を持っているようです。このあたりについては一般の人では知る機会が少ないだけに、なかなか読みごたえがあると思います。

AIが得意なことの筆頭は、あらかじめルールや条件が明確になっている中で最適な解を見つけるような問題です。チェスや将棋、囲碁の世界でAIが一世を風靡していることからも想像がつくかも知れません。その他、東大の入試プロジェクトにおいては数学や世界史についてはかなりの成果が出ていたと書かれていました。

では逆にAIが苦手なことはなんでしょうか? その答えがこの本のポイントである「読解力」です。比較的定式化しやすい数学や世界史と違って、国語や英語など、人間の自然言語からその「意味」を汲み取って回答を作るのはAIが苦手とする問題のようです。AIには「意味」を理解することができない、それが現状のAI技術の限界である、それがこの本で筆者が下している結論です。

AI時代に求められる力

AIが苦手とする分野が「読解力」であれば、人間がAIに負けないためには「読解力」があれば良いという示唆が得られるわけですが、これもそう簡単な道ではないようです。というのも、中学生に対して行われた大規模な調査から得られたのは、「中学生の半数は中学校の教科書が読めていない」という現状だからです。つまり、AIが苦手とする読解力を持っている人は、想像以上に少ないということなのです。

残念ながら、この本には読解力を向上させるためのはっきりとした因子は書かれてはいません。本の好きな方からすると「読書習慣」は読解力向上に効果があると期待してしまうかも知れませんが、残念ながら読解力との有意な相関は見られなかったようです。筆者も主張しているとおり、「処方箋は簡単ではない」のが現実です。

このように、必ずしもはっきりとした答えが書かれているわけではないですが、少なくともAI技術の現在位置を知る上では良い一冊だと思います。AIに対して漫然とした不安をもっているよりも、より確かな知識をもって適切にリスクを捉えることが重要です。この本がそれについて考えるきっかけを与えてくれる一冊であることは間違いないと思います。